とりこぼされる「思い」を形にするために

「あべのま」は、長男が1歳を過ぎた頃、子どもと向き合うひとつの手段として見切り発車した場所づくりでした。

私は、大学を卒業し「さてこれからどうしよう」という時に妊娠して、「親」になることがどういうことか想像できないまま「生む」ことだけを頑なに決めたため、子どもが生まれたとき、これまでの全てがリセットされたような感覚になりました。

子どもという存在が自分にできたことで、必然的に私は「親」になったのですが、どう親であればいいのか、子どもと過ごしていく中でもやっぱりわからなかった。それで、子どものことを考えたいと始めた場所づくりが、いつのまにか子どものことが追いやられ、企画によっては子どもの居場所すらなくなっている。それでも、美術を鑑賞する時の態度や、鑑賞した時に考えたことを日常に繋げていく作業が、子どもやパートナーである夫を含む家族のことを考え続けられる力になると信じて、どう日々のくらしと寄り添い、活動を続けられるかを模索していました。(今も模索中ですが…)

自分の親に、どんな思いで子育てしていたのか、仕事や生活、家族のことをどう考えているのかなど、素直に聞くことができればいいのですが、それがなかなか難しい。今回パートナーとしてお願いした野田智子さんとこのプロジェクトについて話している中で、その「思い」がとりこぼされていることに気づきました。野田さんはアートマネージャーとして常にアーティストと真摯に向き合いながら、そこでの出来事を俯瞰して未来につなげる眼差しを持っている。その姿勢は子育てにも通じていて、話された言葉や態度に、私自身何度も救われることがありました。ここから、野田さんの力をお借りして「対話」することで「思い」を丁寧に紡ぎたい。それらが、子どもが大人になったとき、もし親になったとき、少しでも救われる何かを残すことになると信じて。

高橋静香

子育てを通してひらく「新しい眼差し」へ向けて

あべのまでのトークイベント「アートに携わること、子育てのこと」に参加したあと、引き続き私と対話を続けたいと高橋さんからお誘いいただいたのはちょうど今年の春ごろ。

イベントに参加した当時の私は、二人目を身籠り臨月をむかえたばかりで、(一人目は1ヶ月も早く生まれてきたので)正直どうなっているか分からないと思いながらも、登壇者のお二人の話は絶対に聞きたい!と、お腹の子に毎日毎日「この日まではお腹にいてね、お願いね。」と言い聞かせ当日をむかえたのでした。同じような仕事をする方々の子育て事情は、常に私の関心のひとつです。けれども、イベントとして公の場で話すにはただのお悩み相談会だけで終わっていけない。何を発言するのか、すっと背筋が伸びる思いで挑みました。

この『思いを残すための対話』は、子育てをする中で、「子どもの成長記録は写真や映像で残すことはできるけど、子どもに対して私自身が日々感じ考えている「思い」はどうやったら残っていくのだろう」という漠然とした疑問を高橋さんと共有したところからスタートしました。子どもの成長と共に、とてつもなく早いスピードで変化していく自分自身の「気持ち」の在り処なんて考えてもみなかったけれど、初めて子どもを授かった時感じた社会への違和感、何度も自分を問い直す作業、家族との関係づくり、自覚する自分の立場、仕事とのバランス、などなど、現在進行形の子育ての中で、流れ流れて置き去りにしてきたものとまずは向き合い言語化を試みるところからはじめてみようと思います。

季節はあっという間に冬になり、高橋さんは3人の、そして私も2人の親/母となりました。「今」に追われながらも、子どもを通して感じる日々の出来事や、実感に基づいた等身大の対話をしていきたい。まだ見ぬ「新しい眼差し」へ向けて、はじまりはじまり。

野田智子

drawing : Keiko Takada

プロフィール

野田智子

1983年岐阜県生まれ。
アートマネージャー。アーティストコレクティヴ「Nadegata Instant Party」メンバー。
2014年より個人事務所「一本木プロダクション」を主宰し、ジャンルや環境にとらわれずアートマネジメントを中心にさまざまなプロジェクトを展開している。
夫は美術家/映像ディレクターの山城大督。2児の母。名古屋市在住。

高橋静香

1985年大阪府生まれ。
アートスペース+ギャラリー「あべのま」企画・運営担当。デザイナー。
子どもが生まれたことをきっかけに「あべのま」を夫・高橋和広と共に立ち上げる。また、地域アートプロジェクトの広報物のデザインやアーティストのWEB制作などを手がける。
3児の母。2017年秋に第3子出産。大阪市在住。